今は医療ドラマもリアルになっている時代で、なんとなく集中治療室(ICU)の雰囲気が一般の方々にも認知されてきていると思います。
ただドラマもリアルになっているとは言え、実際にICUを見ると、「まだまだ現実には遠いな」と感じることも多いです。
今回は集中治療室で現役で働いている看護師が、集中治療室の特徴や集中治療室で働く看護師の役割と仕事内容を解説します。
また集中治療室にはCCU、SCU、NCU、RCU、KICU、PICU、HCU、NICUなど分野によって細分化されている病院も多いですが、今回は全般的な集中治療室(ICU)をメインに話していきます。
集中治療室ってどんなところ??
一般的な定義としては、
「呼吸、循環、代謝その他重篤な急性機能不全の患者を24時間体制で管理し、より効果的な治療を施すことを目的とする。英語ではIntensive Care Unitと呼び、日本でもICUという略号が用いられることがある」
Wikipedia
「生命の危機にある重症患者を24時間の濃密な観察のもとに、先進医療技術を駆使して集中的に治療するものであり、集中治療室(ICU)とは集中治療のために濃密な診療体制とモニタリング用機器、ならびに生命維持装置などの高度の診療機器を整備した診療単位」
今井ら.日本集中治療医学会雑誌 209;16:503-504
とされています。
まさにその通りで、院内や院外の重症患者が集まって、より集中的な医療を受けたりケアを受けることができる部署が集中治療室になります。
基本的には特定の診療科にとらわれず、様々な疾患の患者や複数の疾患を持つ患者が多いです。
専門的な知識だけでなく、患者の原疾患とそれに伴う全身状態を関連付けながら総合的にケアしていく必要がある部署です。
一般病棟と何が違う??
一般病棟と違うところは
患者さんの重症度、使用する点滴や薬剤の量
部屋の作り
看護師の配置人数
麻酔科医や集中治療医の有無
などがあげられると思います。
患者さんの重症度
当然ですが、患者さんの重症度が一般病棟に比べて高いです。
しかし以外と理解されていないところが、
と思われていることです。
確かに重症な患者さんが多い部署ではありますが、すべての患者さんがずっと集中治療室にいるわけではありません。
当然、良くなって一般病棟に移れる患者さんもたくさんいます。
つまり一般病棟で管理できる重症度の患者さんも多少なりは常にいることが多いのです。
患者さんとまともにコミュニケーションが取れないんじゃないかと思う人もいるようですが、気楽にお話したりできる患者さんも割と多いです。
今は医療が発達し、研究も進んでいるため、患者さんが良くなるスピードも速くなっています。
一泊だけ集中治療室でみて、翌日一般病棟へ転棟なんてことはざらにあります。
部屋の作り
部屋の作りに関しては一般病棟とは全く違います。
集中治療室はおっきな広場のようなワンフロアに等間隔にベッドが置かれており、ベッドとベッドはカーテンや簡易的な仕切りで区切られていることが多いです。
もちろん多少の個室もある病院もあります。
仕切りが簡易的であるために、
✔︎周辺の患者のうめき声や話す声などが聞こえる
✔︎色んなモニターや医療機器の音が聞こえる
✔︎スタッフが動き回ったり話し合う声が聞こえる
など、様々な「音」に悩まされる患者さんも多いです。
とても元気な患者には耐えられる空間ではないと思います。
また急変や緊急の処置なども多いため、周囲の患者の恐怖をあおることもあるのが実際です。
ただ、そんな部屋の作りではありますが、逆に
✔︎常に看護師や医療スタッフが近くや見える位置にいる
✔︎呼べはすぐにが医療スタッフが駆けつけてくれる
という理由から、安心される患者もいます。
看護師からすれば、患者間の移動距離も少ないため、そういった面での体力はあまり消費しないですね。
看護師の配置人数
一般病棟と集中治療室では看護師の配置人数が違います。
そもそも病院には治療やケアの質を保つために「〇対〇看護」という人為配置基準が決められています。
病院によって様々ではありますが、基本的には
一般病床は7対1の看護
集中治療室は2対1の看護
とされているかと思います。
要は
「7人の患者を1人の看護師が受け持つ」「2人の患者を1人の看護師が受け持つ」
といった感じです。
しかし病院によっては一般病床で10対1や13対1、15対1などの場所もあります。
集中治療室は基本的に2対1看護なので受け持ち患者さんは多くて2名となります。
少ないように感じますが、重症患者のそばを離れられない時もあり、2名の患者でもなかなか業務が回せないこともあります。
落ち着いている時は教育にも時間をたっぷり使えるのが集中治療室のメリットの1つでもありますね。
麻酔科医や集中治療医の有無
集中治療室には麻酔科医や集中治療医が24時間体制で患者さんを管理してくれます。
法律で上記医師が常駐していることが決められています。
ただ、実際は
「麻酔科医や集中治療医は常駐していないが、研修医や上級医は常駐している」
という状態の病院も多いと思います。
どちらにしても集中治療室には近くに必ず医師がいて報告・連絡・相談ができます。
一般病棟は逆に無医村と言われ、医者が常時いないことが多いです。
何かあったり不安な時に医師にすぐに相談できるのが、集中治療室の強みでもありますね。
集中治療室で働く看護師の仕事内容は??
集中治療室で働く看護師の大まかな仕事の流れとその内容について記載します。
朝、申し送りで集中治療室の全体の患者の大まかな情報と大きなイベントや連絡事項を聞きます。
その後受け持ちの情報を夜勤の看護師からもらい、勤務が始まります。
受け持ち患者を持ったら、まずは始業時点検たるものを行います。
集中治療室ですので、患者には生命維持装置やたくさんの点滴が使われていることが多いです。
ですので、生命維持装置がしっかり作動しているか、点滴どんなものがどれくらいの量投与されているのか、患者のバイタルや全身状態を目でみて触れて、聞いて、把握します。
もちろん基本的な挨拶や患者確認などもこの時に行います。
慣れないとこの始業時点検に意外に時間を食います。
患者の申し送りが終わった時点でざっくり、本日の患者のスケジュールが分かっているので優先順位を考えて自身の動きを考えます。
集中治療室にいる多くの患者はシャワーを浴びたり頭を洗ったりすることができません。
そして、身体中に異物(点滴や膀胱留置カテーテル)もたくさん入っていたりしますし、寝たきりの患者さんは褥瘡もできやすいので全身の皮膚の観察も含めて、清拭を毎日することが多いです。
患者によってはリハビリがあったり、歯磨きや食事が一人でできない人がいるので、日中にそれらのイベントをこなしていきます。
看護ケアとしてはざっくり、
✔︎清潔ケア
✔︎歯磨き
✔︎食事
✔︎リハビリ
✔︎患者教育
✔︎検査
などを日中にこなします。
他にも、
✔︎緊急処置
✔︎排泄物の処理
✔︎点滴交換
✔︎新たな点滴や抗生剤
✔︎内服薬
✔︎経管栄養の投与
✔︎転棟準備
✔︎入室受け
✔︎記録類
✔︎カンファレンス
などの業務が盛り込まれていきます。
部署によっては患者の情報などをカンファレンスで共有してより良いケアを提案したり、今の問題をピックアップしてどのような介入をするべきか話し合ったりもします。
呼吸器チームや栄養チーム、退院支援、リハビリチームのラウンドがありそこに参加したりもします。
上記のように様々なイベントが発生するので、よく他のサイトであるような1日の流れを時間で示したりするのが難しいです。
亡くなる人は多い??
集中治療室なので
「亡くなる人も多いのではないか?」
「怖くないの?」
と思う方もいらっしゃるかと思います。
正直に言うと、人は亡くなります。
その瞬間を目にすることもあります。
ただ、私は集中治療室で働いてみて、自分が想像している以上に人は亡くならないものだなと今では思っています。
詳細は以前書いた記事がありますので、参照していただければと思います。
怖い先輩が多い!?
という意見も多いので、そのことについて記載します。
ぶっちゃけていうと
めちゃくちゃ怖い人は必ずいます。
が、だいたいそんな人はどこの部署にも一人や二人はいます。
昔に比べて、今は社会の流れも変わっていますし、昔と違い、あまりに横暴な人はどんどん病院内でも端っこに寄せられて淘汰されていく時代になっています。
昔怖かった人も今はだいぶ丸くなったという方もかなり多いですし、そういう意味では昔に比べて随分と働きやすくなってきたのではないかと思います。
しかし一定数、怖い人や理不尽な人がいるのも事実です。
昔自分が受けた教育をそのまま今の時代にも継続している人が多い印象です。
また集中治療室という場所柄、どうしても一つ一つのケアが患者の全身状態に与える影響が大きいことが多いため、ピリピリしてしまいます。
患者を守らなければならないという、とても強い使命感や責任感が時に人を怖くしてしまうのかもしれません。
しかし多くの人は職場を離れたり、休憩時間になると穏やかになる人も多いのです。
怖い人がいるから集中治療室はやめておこうって考えは、今は少しもったいないかもしれないですね。
集中治療室で働いて良かったと思えること
良かったと思えるもたくさんあります。
まず何よりも、今にも生命の灯火が消えてしまいそうだった人が、集中治療室を退室した後にリハビリの時、退院の時に挨拶に来てくれること。
これは本当に嬉しいです。
看護師が患者さんの容姿が変わりすぎて最初気付けないなんてこともざらにあります。
そのぐらい、見違えるように表情や体格が変わる人が多いのです。
そして患者側で多いのが
「よくわからないんですけど、病棟の看護師さんが、集中治療室でめちゃくちゃお世話になってるから顔だして来てと言われて来ました。でもここにいたことは全然覚えてないんですよね。」
というパターンです。
集中治療室の看護師はみんな、
「◯◯さーん!」
って駆け寄るのに、患者は
「???」
みたいなこともよく起こるので本当に面白いです。
やはり元気になっていく患者さんをみていくのが集中治療室の看護師のやる気ややりがいになっているんだろうなと思います。
また良かったこととしては、患者さんの病態やケアに対するアセスメント力がかなり身につく事です。
つまり、集中治療室で働く事でかなりの知識、技術が身につくので、集中治療室で経験を積む事で、今後どこの部署に移動しても即戦力として働くことができるという事です。
休憩中
余談ですが、集中治療室より一般病棟の方が休憩室におやつが溢れる傾向にあるみたいです。
退院される患者や入院中の患者、家族からの差し入れが多いからです。
集中治療室ではそんな余裕がないことが多いですからね。
集中治療室で働きたい看護師へ
集中治療室で働くことは、ある程度知識が定着して、業務に慣れるまでは本当に激務です。
ただ、壁を一つ超えるだけで見える世界が変わるのも事実です。
ある程度の大きさの病院であればどこでも集中治療室はありますが、場所によって業務やケアの方法、看護の質は様々です。
どこの集中治療室も一長一短あるのが現実です。
ただ、全国各地に数えきれない集中治療室があります。
自分に合う職場を探すために、よければ下の記事を参考にして頂ければと思います。
良い職場に恵まれることを祈っております。